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2019年のジャニーズ伝説とはなんだったのか。

2019年10月29日。2019年のABC座、ジャニーズ伝説2019が幕を下ろした。

初日は怒りでいっぱいだった。改悪としか言いようのない演出、脚本変更。こんな大事な年にこんなひどい舞台を上演するなら、昨年のまま上演してくれればよかったのに。あるいは、2013年、2014年のように思い切りファンタジーにしてくれればよかったのに。いや、むしろやらない方がましなんじゃないだろうか。そんなことを思ってしまって、どうしようもなくつらかった。

それでも、私は劇場に足を運ぶ。内容がどうだろうと自担がいれば見ないという選択肢はない。一幕は虚無だ…と思いながら、見続ける。ストーリーはそのままではあるものの、回数を重ねるごとに変化していく舞台。舞台中に触れた戸塚くんの言葉。蘇ってくる思い出の数々。それらを繋ぎ合わせてみた時、私の中でやっとひとつの答えが出た。

2019年のジャニーズ伝説は、『未来への旅立ちの物語』だったのかもしれない。

 

 

ジャニーズ伝説について

ジャニーズ伝説は2013年の初演から2014年、2017年、2018年、そして今年2019年と計5年に渡って上演されたABC座を代表する演目ともいえる。

この記事を読んでくださっている方にとっては不要かもしれないが、もし見たことがない方がいらっしゃったら、過去二回、円盤化もされているのでそちらもぜひ見てほしい。(今年もカメラが入っていたらしいので、円盤化されることを期待する)

まずは2018年までのジャニーズ伝説の話をしよう。2018年まで4回に渡り上演されたジャニーズ伝説ではあるが、そのストーリーは大きく二つに大別される。

2013年、2014年のジャニーズ伝説は、初代ジャニーズの歴史をベースに、初代ジャニーズと架空の存在である盲目の少年そしてその兄の物語が描かれていた。2017年のジャニーズ伝説についての記事を書いた時にも同じようなことを書いたが、この二年間のジャニーズ伝説は史実を下敷きにしたファンタジーだった。

打って変わって、2017年、2018年のジャニーズ伝説は、舞台上に実在しない人物が存在しない伝記的な物語になった。この二年間のジャニーズ伝説で一番大きな変化と言えるのは、舞台上にジャニー喜多川その人を登場人物として登場させたことだと思う。

ジャニーさんが登場したことで、ジャニーズ伝説は大きく変わった。ジャニーズ伝説は、常にふたつの視点を持って描かれていたのだが、(前者(2013年、2014年版)は初代ジャニーズあおい輝彦氏と盲目の少年の兄、後者(2017年、2018年版)はあおい輝彦氏とジャニーさん)ふたつ目の視点がジャニーさんに変わったことで、初代ジャニーズの歴史を内存する『ジャニーズ』の歴史を描く大きな物語へと変わったように感じられた。

2017年にジャニーズ伝説が再演されることとなった一因にはジャニーさんが高齢になってきた今だから演じなければならないという誰かの想いがあったのではないだろうか(もちろんそれだけではないだろうが)。ジャニーズ事務所が大きく変わっていく未来が遠い未来の話ではなったからこそ、ジャニーさんが『ジャニーズ』を作った当時のことを描き、受け継いでいくべき伝説を提示するために、2017年と2018年のジャニーズ伝説は再演されたように思う。

うっかり2018年のジャニーズ伝説について記事にしそびれていたのだけど、2018年のジャニーズ伝説は『ジャニーズ伝説の集大成』と言っても過言ではない舞台だった。ストーリーはよりシャープになった。演出もより物語に深みを持たせるものになった。そして、なによりもラストシーンが感動的だった。ジャニーズの解散を見届けたジャニーさんが、ステージの奥に現れた四人のもとに駆け寄り、楽しそうに五人で笑い合う。次のステージのことを話しているのだろうか、軽口を叩きながら笑って、でも真剣で。そんな五人をステージに残したままステージの幕は降りる。紗幕の向こう、暖色の照明に照らされたその姿は、過去のジャニーズとジャニーさんを表していたのかもしれないし、あの日ジャニーさんが描いた夢がまだ続いているということを表していたのかもしれない。

ジャニーさんが「僕はA.B.C-Zのファンだから」と言ってくれた2018年のジャニーズ伝説。手前味噌だけど、どこに出しても恥ずかしくない、A.B.C-Z以外の『ジャニーズ』を好きな誰かに見てほしいと思えるような舞台だった。

 

 

2019年のジャニーズ伝説

2019年のジャニーズ伝説初日。戸塚くんの目の前でJr.の靴が脱げ、その靴を戸塚くんが履かせてあげるという、戸塚祥太による1999年の戸塚少年の救出劇で感動したものの、終わったあとはとてもしんどかった。特に一幕。出番がない!虚無!脚本最悪!台詞移し替えただけじゃん!事前情報で知ってはいたけど、ジャニーさんいないのつらすぎ!等々。これまでを知っているからこそ、悲しくて、腹立たしくて、耐えられなかった。

今となっても、出番や脚本に対する悲嘆や怒りは消えてはいない。これは嘆いてもいいことだし、怒ってもいいことだと考えている。ただ、全てが終わった今だからこそ、ジャニーさんの不在については必然だったように感じている。

ジャニーさんが亡くなってその存在がよりオープンになったこと、ジャニーさんが公の場に出ることは嫌っていたこと、今回演出に加わったタッキーがジャニーさんがいるのは違うんじゃないか?と言ったこと。ジャニーさんを出さないという選択をする裏付けになる事実はたくさんあったけど、なんとなく腑に落ちなくて、ずっと噛み砕けないままだった。けれど、千穐楽で戸塚くんが泣いた話を聞いて、急にすとんと胸に落ちてきた。

“ジャニーさんは、もういない。”

その事実は変わらない。どうしたって揺らぐことはない。いくらステージの上に彼を描いたとしても、彼はもう、いないんだ。ひとつの夢とひとつの伝説は終わりを迎えたんだ。

そう思うと「描かない」という選択は、とても正しいものだったように感じられる。

ジャニーさんのいない今、彼に頼らずに、彼の姿なくして新たな「ジャニーズ伝説」を作り上げることは、彼らが今やらなければならないことだったように思う。

2013年、2014年のジャニーズ伝説がAパターン、2017年、2018年のジャニーズ伝説がBパターンだとすると、今年のジャニーズ伝説はB'だと思っていたけれど、実はそうではないのかもしれない。今になって思うと、2018年のジャニーズ伝説と2019年のジャニーズ伝説はまったく別の物語だったと思える。

ジャニーさんの逝去で、伝説はひとつの区切りを迎えた。いつまでも過去の中で生きることはできない。ジャニーさんがいた過去から旅立ち、新たな伝説を今に繋いでいくための物語が今年のジャニーズ伝説だったと、今の私は感じている。

 

 

物語の結末、そして行く先

では、この『未来への旅立ちの物語』の結末はどうなったのだろうか。もちろん、今の地点での結末ではあるものの、私が感じたことをここに残しておこうと思う。

今年のジャニーズ伝説で特に素晴らしかったことは、たくさんの子どもたちが出演したことだと思う。

ABC座のバックはジャニーズJr.の中でも比較的舞台経験の多いJr.が務めることが多く、クオリティの高い安定したステージを見られることが例年のABC座の魅力でもあった。ところが、今年のバックはいつもとは様子が違った。これまでに続きMADEの出演はあるものの、キャリアはあるが(とは言っても十分短い)幼い少年忍者、そして、戸塚くんと一緒に初代ジャニーズの歴史を辿る少年たちとしては入所して間もない子どもたちが舞台の上に立っていた。

子どもたちを見ているとジャニーズ伝説の本編でのワンシーンを思い出す。突然テレビ出演が決まってこれから収録という場面でジャニーズのメンバーは「できない」とは言わない。もちろんこれはお芝居の中だけど、現実にもそんな場面があるということは『ジャニーズ』のタレントから数多くのエピソードとして語られている。彼らが、それまでに努力を積み重ねていることはわかっている。でも十分に準備が整っていようがいまいがステージに出て何かを残すというチャレンジングな姿勢は『ジャニーズ』を象徴するものだと思う。そして、タレントからよく語られるジャニーさんの「You、やっちゃいなよ」というセリフにも表されるように、『ジャニーズ』は子どもたちにチャレンジできるステージを常に与え続けることで、子どもたち、そして『ジャニーズ』の未来を作ってきたともいえる。

子どもって本当にすごい。一ヶ月という短い間に驚くべき成長を遂げる。覚束ないアドリブを見せていた織山くんも最後には誰にも頼らずアドリブをこなせるようになったし、戸塚くんと少年たちのやり取りも仕込みはあるだろうけれど十分に観客を楽しませるものになった。演技もダンスもそうだし、なによりも表情が変わったと思う。少年たちの成長には、彼ら自身が先輩の背中を見て自分の力で得た部分もあるだろうし、きっとA.B.C-Zも彼らとそれ相応のコミュニケーションを取ったのだと思う。タレントがタレントを育てるというのもまた『ジャニーズ』の伝統のひとつだろう。

そういったある種の『ジャニーズイズム』のようなものをこの舞台を通して私は感じられたし、それが結果として表れたということは「自分たちはもう大丈夫」という彼らからのメッセージだったようにも感じられた。

だからきっと、この物語はひとつの素晴らしい結末を迎えたのだろうし、この結末が本当の結末ではなく、未来へ向かう決意を表したものだったとも言えると思う。

(余談にはなるが、長い間、Jr.に囲まれているA.B.C-Zを見ていなかった。年齢やキャリア的に仕方ないとはいえ、それを少し寂しく感じてもいたので、今回のように自分の子供でもおかしくないような子どもたちと共演している彼らを見ると胸が熱くなった。)

 

 

戸塚くんのジャニーズ伝説2019

お久しぶりです、考察中です。

ここまで自担のことはあまり話さなかったのですが、私がこれで終わる女ではないことは以前からこのブログを読んでくださっている方ならご存知でしょう。個人的な解釈なので、ふーん、ぐらいで読んでいただければと思います。

 

ZIPのジャニーズ伝説の密着、稽古初日の稽古場。ジャニーさんがいつも座っていた場所を前に「大体ジャニーさん、あそこに座ってたんで、そこらへんになんか……ジャニーさんの息吹がありますよね」と、戸塚くんは笑った。ジャニーさんのいない稽古場で、現実と対峙しながらもどこかまだ戸惑いを隠せないように見えた。

10/27のとつブロ、「もう会えない誰かと、今を生きているみんなを自分の肉体を通して、間接的に引き合わせることができるんじゃないかと」。10/28のとつブロ、「僕の肉体を通過した先にある、あなたのメモリーにアクセスしてみてください」。戸塚くんは私たちを現在にいながらにして過去の世界へ導き、会えない誰かと会わせようとしていた。けれど、本当にもう会えない人と会いたいと思っているのは、きっと彼も同じ、いや我々よりも強くそう思っているのだろうと思った。

そして、千穐楽。残念ながらこの目では見れなかったが、You…で戸塚くんはステージの上で泣いた。人前では泣かないと決めている、と言っていた戸塚くん。私もお芝居以外で戸塚くんが泣いている姿は見たことがない。そんな戸塚くんが泣いたということに少なからず驚きはしたものの、「あぁ、戸塚くんが泣けてよかったなぁ」と思った。だって、きっと、それは彼がその想いを遂げたということだと思ったから。

10/27のとつブロで、「眼力で目の前の空間に異次元への入り口を開けられる!と思ったことがジャニーズ伝説の本番中に2回あった」と記しているけれど、これは十中八九You…の曲中のことだろう。You…は、ジャニーズ伝説2019の上演にあたって堂本剛くんが書き下ろしてくれた曲だ。ジャニーさんが大切にした平和への祈りや未来への無限の可能性も歌われるその歌詞はジャニーさんから彼の子どもたちであるタレントへのメッセージであり、そういうあなただから好きだったという、子どもたちからジャニーさんへの尊敬と愛を込めた歌にも聞こえる。千穐楽のステージでその歌を歌いながら、戸塚くんはきっとその入り口を開けて、もう会えない誰か、つまりはジャニーさんと会うことができたんだろう。

10/27のとつブロで戸塚くんはこうも語っている。「だからみんな、僕の身体を通過して、出会い、言葉を送ってね」きっと戸塚くんは、そこで彼とまた出会い、言葉を送ったのではないだろうか。その言葉は「ありがとう」かもしれないし、「さようなら」かもしれないし、もっと想像もつかないものかもしれない。どんな言葉だったとしても、今の彼にとって相応の決意を込めた言葉だったのかなぁ、と思っている。

これはすべて想像にすぎないから、いつか時がきたら戸塚くんから教えてもらえたらいいなぁ。

 

 

残念ながら私は本番中に戸塚くんを通してジャニーさんに会うことはできなかったのだけど、戸塚くんのことを考えながらこの記事を書くことでジャニーさんに会えたような気がしている。

こうして終わってみると、2019年のジャニーズ伝説はとても実りある舞台だった。ジャニーズはこれからも変わらず続いていくのだなぁと実感できたから。

ジャニーズ伝説は終わらない。子どもたちが、そして私たちが夢を見続ける限り、伝説はきっと、続いてゆく。