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失われた夏の物語 真夏の少年〜19452020

エモいは、英語の「emotional(エモーショナル)」を由来とした、「感情が動かされた状態」、「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本のスラング(俗語)、および若者言葉である。ーーWikipediaより

 

2020年の夏は『失われた夏』だ。この夏は、夏らしいことはほとんどせずに大半を家で過ごした。多くの人がそうだろう。コンサートツアーの始まりとともに夏が始まり、コンサートツアーの終わりとともに夏が終わる。もうずっとそんな生活をしていたから、今年の夏はどこかつまらなくて寂しいものだった。

今まで当たり前だったことが今年は当たり前じゃない。『不自由』というとおおげさかもしれないけど、そんなふうに感じることもあった。外出自粛も炎天下の下でのマスクも、息苦しくて息が詰まる。有り余った時間を持て余し、体の奥底にやり場のないエネルギーを燻らせる。そんな2020年の夏、私が傾倒したのが、ジャニーズJr.のグループ 美 少年と彼らが出演した『真夏の少年〜19452020』だった。

 

 

いつもYouTubeで見ているあの少年たちが主演のドラマが始まるらしい。どこから得た情報なのかはわからないけれど、初回放送日に私はテレビの前にいた。といっても、うっかり忘れていて気がついたらすでに放送開始時間を10分ほど過ぎていた。慌てて合わせたチャンネル、画面に広がる青い空、その下を自転車で走る金髪の少年。引きのカットへと移り、青い海岸線が映る。BGMはThe Beach BoysのSurfin' USA。タイトルは知らずともメロディは多くの人が知っているであろう1963年のヒットナンバーだ。タイトルバックの美しい海に夏を感じる。BGMは懐かしいけれど、映像は鮮やかで、古びた映画を見ているわけでもなく、今流行りのドラマを見ているわけでもない、不思議な感覚に包まれた。

 

真夏の少年の、夏

『自由を感じない若者と、自由を奪われた兵士が、時空を超えて出会った』

キャッチコピーに象徴されるように、この物語の根底には『自由』と『不自由』というテーマがある。

ストーリーは至ってシンプルだ。関東にあるベッドタウン富室町を舞台に地元の高校に通う高校2年生の6人の少年と1945年太平洋戦争の真っ只中からタイムスリップしてきた軍人が出会い、ひと夏をともにする。よくあるタイムスリップものであり、よくある大人と子供との関わり合いをもとにした成長物語でもある。

美 少年のメンバーが演じる6人の少年はそれぞれに何らかの事情を抱えて『不自由』さを感じている。佐藤龍我くん演じる瀬名悟は、無気力で幸せに対して無自覚で、生きているという実感を持つことができていない。那須雄登くん演じる柴山道史は、学校では生徒会長を務める優秀な生徒でありながら、母親の過度な期待や干渉に息を詰まらせている。浮所飛貴くん演じる春日篤は、母を亡くし、父の再婚相手を家族として受け入れることができず、家族の中に自分の居場所を作らずにいる。藤井直樹くん演じる山田明彦、金指一世くん演じる山田和彦は、町の有力者である母を持つ双子の兄弟。仕事に情熱を傾ける母親から放置され、金持ちというだけで学校では阻害され、二人だけの閉じた世界を作っていた。岩﨑大昇くん演じる風間竜二は、リーゼントとサングラスのひと昔前のヤンキースタイルだが所詮は見掛け倒し。本編ではあまり描かれなかったが表向きにはシングルマザーの母親に反抗はしているもの、実のところは母親思いの少年で友情にも篤い。

ストーリーの主軸になるのは悟が巻き込まれたクラスメート財前の自殺未遂事件だ。自殺未遂の原因として名指しされた悟は、濡れ衣を着せられ無期停学の処分を下されてしまったが、今ひとつ自分のこととして実感が伴わないままただ時を過ごしていた。そんなある日、竜二、悟、篤が秘密基地で過ごしている時に、富室町に大きな雷が落ちる。雷が1945年の大宮島(グアム島)から三平三平という軍人を連れてきたことで、ストーリーは動き出す。

ストーリーの中に織り交ぜられる問題提起には、普遍的なものもあれば現代社会特有のものもある。当事者の少年少女たちの視点に私たちからすれば遠い過去の世界からやってきた異なったバックグラウンドを持つ大人の視点が加わることで変化が生まれ、少年たちは三平も含めた大人や今まで関わってこなかった学友たちと関わることで成長していく。そんな青春群像劇だった。

ストーリーが進むにつれ、1945年からやってきた三平の過去への帰還について焦点が当たり始める。戦争について多くを語らなかった三平が少年たちの真っ直ぐな思いを受けて口を開くシーンは重みがある。戦後75年という節目の年を意識して作られたんだろう。実際に戦争を経験した人が少なくなり、生きた言葉が聞けなくなりつつある今、私たちはその時代を生きた個人の感情を想像し、それを心に刻んでいくことが大切なことなのかもしれない。そんなことを考えさせられる作品だったように私は思う。作中の三平のセリフにこんなセリフがある「今は戦後か? 新しい戦争の前とも言える」。人類の歴史は戦争の歴史でもある。多くの戦争の中で『自由』を奪われてきたたくさんの人がいた。今、『自由』だと言われている若者たちがどんなふうに『自由』を生きるのか。それが未来の『自由』にも繋がるのかもしれない。

豪華俳優陣が演じる人間味のある大人たちと、少年少女たちが瑞々しい演技で魅せる個性豊かな生徒たち。ストーリーにはシリアスな部分もあったが、それよりも温かく優しい雰囲気のシーンが多く感じられたのは、登場人物の心の底にある想いに触れるシーンが多かったからだと思う。映像は、全編通して鮮やかな色彩で描かれ、映画を観ているようで美しかった。私は特に海や空の青や木々の緑といった自然の色彩と、秘密基地の窓から射し込む光の表現が好きだった。秘密基地に降り注ぐ光は優しくも物悲しく、どこかフェルメールの絵画を思い出させた。BGMとして本編を彩るオールディーズや昭和歌謡は郷愁を誘い、現在と過去の橋渡しをしていた。Kis-My-Ft2の歌う主題歌『Endless Summer』のイントロのドラマチックさと夏の煌めきを感じさせるメロディが作品をさらに眩しくした。

ドラマ単体で評価しても、今大人になろうとしている少年・少女たちの、短くかけがえのない夏を描いたエモーショナルなーーエモい作品だったと、私は思っている。

 

 

美 少年6人の、夏

私は、ジャニーズドラマが好きだ。その中でもグループ全員で主演を務めるドラマがとても好きだ。ファンだからこそ感じられる本編以外の文脈から感じる感動が、とても好きだ。

新型コロナウイルスについてのニュースが日夜報じられるようになって半年近くの時が過ぎた。新しい生活様式が提唱され、それが私たちの日常になりつつある。働き方、遊び方、暮らし方ーー生き方というと大げさかもしれないけど、生活根幹にあるものが大きく変容した、今年の夏はそんな夏だった。そんな初めての夏、美 少年はグループとしてドラマ初主演を果たす。メンバー全員、演技経験が多いわけではない。中でも、浮所くんと金指くんは今回が初めてのドラマ出演となった。本来のスケジュールがどんなスケジュールだったのかはわからないけれど、最終回直前まで撮影をしていたし、かなりタイトなスケジュール進行だったのではないだろうか。そんな中、夏のコンサートSummer Paradiseのライブ配信もあった。きっと彼らはこの夏を全力で駆け抜けたんだと思う。

一話に比べるとみんな髪が伸びた。表情もどことなく大人になった。十代の少年たちは、瞬きひとつの間に大人になる。そんな成長スピードの速さを、ドラマの中の少年たちと彼ら自身を重ねて感じていた。ドラマの最終回、三平さんとの別れのシーンは、ドラマの中の少年たちにとっても、美 少年にとっても、短く熱い夏からの卒業式だったと思う。自分の顔で泣くメンバーも、役柄のまま泣くメンバーも、うまく泣けないメンバーだっていたけど、みんないい表情だった。何かに一生懸命取り組んで、やり切った時に見せる表情だった。そこに評価は必要ない、とても大変な夏を走り切ったことへの称賛がただあれば、それでいいと思う。本当によく頑張ったね。そう声をかけてあげたくなる、とてもいい表情だった。

メンバーの中で一番演技経験の多い龍我くんはさすがの演技を見せてくれた。コミカルな演技もシリアスな演技も自在に演じる器用さが龍我くんにはあると思ったし、しっかりと役に寄り添った感情表現に感心した。大昇くんは場をパッと明るくする大昇くん本人の天性の華はそのままに6人の中で一番コミカルな役柄を、演技だと感じさせない自然な演技で演じていた。そんなふたりが行き場のない言葉にできない思いを拳でぶつけ合う最終回の雨のシーンは涙を誘った。真面目な生徒会長役の那須くんははまり役だったし、メイン回で母の愛情に気付くシーンで流す涙はとても美しかった。浮所くんは本人のパーソナリティとは真逆の寡黙な少年を映像作品初出演とは思えない表現力で好演した。もちろんみんな映えるのだけど、今作での浮所くんと那須くんの画面映えの良さは特に素敵だったと思う。個人的に一番いい演技をしているなと思ったのは藤井くんだった。みんなから少し距離を置きつつも心は共にある難しい役をしっかりと演じていた。普段の藤井くんのかわいらしい雰囲気を微塵も感じさせないとても大人っぽい演技だった。金指くんは本人が話していたように最初は苦戦することもあったようだけど、内気でどこか幼い少年を優しく愛らしく演じていたと思う。花が咲いたような笑顔やニュアンスのある悲しそうな表情、感情を表情で表すお芝居がすごく様になっていたので、これからもっと伸ばして欲しいなと期待をしている。

ドラマと並行してテレビ朝日の動画配信プラットフォーム TELASAで配信されていた『美 少年、◯◯。』は、週替わりのテーマに沿ってドラマの裏側を感じられるドキュメントとなっていた。最終回放送後のテーマは、『美 少年、泣く。』オールアップ後の美 少年のもとに届いた共演者の方やスタッフからのビデオメッセージ。それを見ながら涙するメンバーもいれば、真剣な表情で画面を見つめるメンバーもいた。様々な想いが交錯する夏、彼らが得たものは何にも変えがたい大きな経験だったに違いない。

ここからどこかもっと遠くへ、まだ見ぬ世界へ羽ばたいていく、発展途中で未完成な少年たちが駆け抜けた夏。私は、彼らの姿を画面を通して見ることで、2020年の『失われた夏』を補完していた気がする。それはとても眩しくて、美しくて、エモい夏だった。

 

 

最後にドラマの公式アカウントと監督の一人である及川拓朗監督の、最終回放送後のインスタグラムの投稿を添えておく。素晴らしい夏を届けてくれた多くの人に大きな感謝を。

美 少年のみんな、本当にお疲れ様!そして、素敵な夏をありがとう!