I like what I like

アイドルが好きです。

舞台 BACKBEAT 覚書(前編)

最初見たときは最高と最悪が一気に押し寄せてきて驚いた2019年の戸塚くん個人舞台であるBACKBEAT。最高ポイントはこちらにざくっとまとめてあるのでよければご一読ください。

BACKBEAT一回目、もりもり全部のせ最高の巻 - I like what I like

 

初見後、めちゃくちゃ最高だけど回数は重ねられないなと思った。ちょっと体調が悪いこともあったけど、とにかく戸塚くん演じるスチュアート・サトクリフ(以下スチュ)とその恋人のアストリッド・キルヒャーが全然好きじゃない!この作品とはチューニングが合わないなぁとちょっと悲しくなった。

とはいえそれなりに回数を重ねるに連れてちょっとずつ寄り添えてきたし、ちょっと楽しみ方がわかってきた気がします。東京公演も終わりましたし、自分の中の整理として全体の流れを攫いながらスチュとアストリッド、そしてジョン・レノンハンブルク時代のビートルズについて感じたことをブログにしてみようかなと思います。

まず最初に断っておきたいのですが、私はビートルズはメンバーの名前と有名な曲しか知らないし、当時の時代背景にも明るくありません。彼らの人となりや歴史についても文献を読んだわけでもなく、WikipediaGoogle検索で上位に上がってくるブログを参考にしたのと映画のBACKBEATを見ただけ。ビートルズが好きで十分な知識量を持っている方からすると違和感もあるかもしれないですし、付け焼き刃でお恥ずかしい限りです。こうなんじゃない?というご意見があればぜひ教えてください。

当たり前にネタバレをしますし、映画版との比較などもあるのでまだ読みたくない方はご遠慮いただければと思います。

本当は一つの記事にしたかったんだけど、さすがに長すぎたので一幕と二幕で前後編にすることにしました。

 

 

『ビーバッパルーラ!』

スチュが何度も何度も口にするこの台詞は、ジーン・ヴィンセント&ヒズ・ブルー・キャップスが1956年に発表した楽曲『Be-Bapa-A-Lula』から。1950年代にアメリカから始まったロックンロール。黄金時代と言われながらも政治的、文化的に保守的な社会へのカウンターカルチャーとして登場したロックンロールは海を渡りイギリスへ。ビートルズの少年から青年へ成長していく過程で耳にした(或いはレコードが擦り切れるまで聴いたかもしれません)曲のひとつだったのでしょう。*1

 

大きな波の始まり

舞台はイギリスはリバプールイングランドの北西部に位置する港町から始まります。この物語の主人公であるスチュとジョンは、かつてあった美術学校リヴァプール・カレッジ・オブ・アートの学生でした。今まで会った誰とも違うような激烈な個性を持つジョンにスチュが惹かれるように、ジョンも同じく芸術の才能に溢れるスチュに夢中になります。舞台ではジョンに与えられたベースの借りを自分の絵が売れたお金で返しますが、史実では絵が売れたからベースを購入したようです(映画版も同じく)。

ジョンに教えられて初めてベースで音を出すスチュ。最初は胡乱げなスチュもジョンに言われるがままにベースラインを紡ぐうちに音楽に魅了されていったのではないでしょうか。(スチュももともと音楽は好きだったようですが、ビートルズに入ったのは成り行きでした。)ジョンはなぜベースも弾けないスチュをバンドに入れたかったのかな。「だって、かっこいいだろ?」なんておどけて揶揄うようなセリフはあるものの、スチュが絵画を通して表現する情熱に惹かれていたのかもしれません。

展覧会で絵が売れたことをきっかけに、学校の講師の言葉も聞かず、スチュは仲間とともに海を渡りハンブルクへと。彼の人生を変えてしまう大いなる航海へと漕ぎ出すのでした。

展覧会で絵が売れた時、小切手を受け取るスチュはどこか寂しそうに見えました。「絵が売れた時は恥ずかしかった。自分の中の秘密を明け渡したみたいで」「壁紙になって、いつか絵があることすら忘れられる」彼の中にある情熱を、想いを表現する手段は絵を描くということだったけれど、一枚の絵が売れたことで自分の中にあるものを剥き出しにされるある種の恐ろしさやそれが忘れられる虚しさをスチュは感じてしまったのかなと私は思いました。ジョンに惹かれたから、ロックンロールに情熱を感じたから、ビートルズとして海を渡ったけれど、そこにはもしかしたらまだ自分と向き合えないほんの少しのスチュの弱さがあったのではないかなと思っています。

 

セックス、ドラッグ、そしてロックンロール

To the Top ! Top of the Top ! 夢と楽器だけをその手に頂点を目指してハンブルクに渡るビートルズ。ダンスシーンなどもはさみながら軽快に物語は進みます。いやー!踊るなんて思ってなかったから嬉しかった!しかし、ハンブルクビートルズを待ち受けていたのは、想像とは全く違う現実でした。売春宿の地下の地面とほとんど変わらないステージ、来る客は酔っ払った船乗りや娼婦やヤクザ。それでも、雇い主であるブルーノ・コシミダの言葉に従い週に7日、1日6時間の演奏を続けるビートルズ。しかも、ただ演奏するだけではない足りない、客が求めているのはマックショウ!Make it show! 踊れないなら跳べばいいと言われ、演奏しながらぴょんぴょん跳ねるビートルズは青くて若くてパワフルで最高にかっこよくて楽しかった。

「こっちの子は違うなぁ」と言ってしまうようなグルーピーの女の子とのシーン。宿として充てがわれた映画館のスクリーンの裏の大きなベッド(バンビ・ホテル)で5人一緒にユニオンジャックのシーツを被って眠る。最年少のジョージ・ハリスンを演じる辰巳くんの演技は最高にキュートでした。この時のジョージは17歳。当時のドイツの最小労働者年齢を満たさないため18歳だと嘘を吐いてステージに立ち続けるのですが、それが後々大きなトラブルの元になるのです。

酒と女とドラッグ。ドラッグキメたあとの演奏シーンなんて最高にクレイジーで私は大好きです!(このシーンでドラムのピートだけは手を出していません)目も回りそうな慌ただしさとそれ以上に刺激的な毎日の中、ビートルズが暮らす部屋を訪ねたクラウス・フォアマン*2によってひとつの転機がもたらされます。「今夜、彼女をクラブに連れて行く」そう言ってクラウスが連れてきたのがアストリッド・キルヒャー。「ロックンロールなんて好きじゃない」と言う彼女も「ここでは特別なことが起こっている」とクラウスに説得され、渋々フロアへ、そこで目にした光景に彼女も心を打たれたのでしょう。

クラブを抜けたジョンに話しかけるアストリッド。聡明な彼女はジョンの喪失感やそれを自分たちの音楽で埋めようとしていることに気が付きます。舞台ではジョンがアストリッドに対して恋愛感情を描いているのかどうか曖昧な描かれ方をしていますが、映画ではジョンはアストリッドに惚れているという描かれ方をしていて、もちろん彼女の才能にという部分もあったのだろうけれど、こういった彼女の聡さに惹かれたのかもなと思いました。ジョンにバンドのメンバーのことを尋ねるアストリッドの元に現れるスチュ。細かくて伝わらないポイントなんですけど、ジョンにアストリッドを紹介されたスチュがアストリッドに挨拶をしたあとに「誰?」とジョンに訊くシーンがフェチ心をくすぐります。いや、最高じゃないすか、この雑さ!パーティ野郎っぽくて!(もちろん違うんだけど)

フロアに戻るジョンと連れ立って戻ろうとしたスチュに対して彼女は今夜二つのことに気付いたと告げます。「私がロックンロールが好きなこと」そして「ロックンロールだけでは満たされない日がいつか来ること」二つ目の気付きには主語がないから、きっとスチュに対して投げかけられた言葉でしょう。先にフロアに戻った彼女を追って、「Fantastic!!!!」*3と叫びながらフロアへと戻っていくスチュ。のちに吐露されることでもありますが、スチュはグループの一員でありながらグループでの自分の必要性については葛藤を抱えている部分もなかったとは言えないと思います。そしてそれが自分の本質なのかという思いも。ステージで演奏している姿を見ただけでそこまで言い当てた彼女の観察眼(スチュが画家だという話は聞いていたのかもしれないしそうでないのかもしれない)や聡明さにスチュも惹かれたのだと思います。(もちろん彼女が美人だったからというのもあるでしょうけど)

 

アストリッドへの想い

クラウスとアストリッドに連れられてビートルズの面々はハンブルクの街を見下ろす場所へ。街を眺めるみんなと離れてアストリッドとスチュは話し込みます。スチュにとっては彼女が言った「ロックンロールだけでは満たされない日がいつか来る」という言葉が心の何処かに引っかかっていたんだと思います。アストリッドは言います。「ロックンロールは魅力的だけど、芸術には洗練が必要」と。「ここに誘ったのは全てを見てほしかったから。私たちの世代はすべてを見渡す必要がある」と。これは彼女からスチュへのメッセージだったのかなぁ。今目の前のことだけに囚われないでほしいと。

「俺は本当はミュージシャンじゃない。絵描きだ」この言葉をアストリッドに告げた時点でもう運命は決まっていて、アストリッド自身もスチュの進むべき(彼が望んでいる)道へと導こうとし始めたのかもしれません。

クラウスに見せられたアストリッドの写真に感銘を受けたスチュの提案でアストリッドに写真を撮ってもらうビートルズ。「ビーバッパルーラ!」出来上がった写真を見て、スチュは感銘を受けます。それはもちろんジョンもポールも他のメンバーも。他のメンバーが去っていたあと、2人残った舞台の真ん中で初めて彼女にキスをするシーンのスチュの表情はとても優しくて、まぁいいもの見せてもらいました。

(2019.6.24追記)

クラブのシーンで演奏されている『Money』。途中演奏を抜けて写真を現像するアストリッドの元へスチュは向かいます。ベースが抜けたあとのバンドの音はどうも締まらなくて(元々ベースが重ための曲ということらしいですが、音自体も大きくされていたようです)、途中からジョンもやる気をなくしてしまい、メンバーは焦りながら演奏を続ける。ジョンのスチュに対する執着が見えた瞬間でした。

(追記終)

スチュは彼女の容姿や聡明さだけではなく、才能にも惹かれたのでしょう。スチュは彼女と関わる中で自分の中の画家としての魂を揺さぶららたのかもしれない。少し離れていたもう一つの(そして本当の)姿をまた求め始めたのかもしれない。そんなスチュをアストリッドはエルベ川へ写真を撮りに行こうと誘います。「あなたは暗がりの中で生きている。絵描きには光が必要よ」と。

彼女と別れたあと、ポールが歌う『A Taste of Honey』に合わせて溢れる想いを言葉で体で表現するスチュ。戸塚くんのコンテンポラリーのようなダンスはあまり見る機会がないから、すごく見応えがありました。そして情熱的に、それでいて切なく苦しく紡がれる言葉。こういうせりふ回しのシーンが私は大好きなので、心が揺さぶられ胸が熱くなります。このシーン、きっと回毎に違うものが見られると思うからそういった楽しみ方もあると思います。東京公演、私が観劇した中で一番好きだったのは6/8の夜公演でした。

ちなみにポールが歌う『A Taste of Honey』の和訳詞、とてもいいのでぜひ見てみてください。

https://lyrics.red-goose.com/a-taste-of-honey-the-beatles/

 

拡がる波紋

アストリッドに対するスチュの想いが加速する中、彼女に撮ってもらった写真を手に売り込みに行ったポールによって、ビートルズの運命も大きく動き始めます。バックバンドとしてのレコードデビュー。転がり込んできた大きなチャンスをもちろん不意にするわけもなく、明日にでもレコーディングに行くというポール。それはメンバーの総意だったけれど、スチュはアストリッドとの約束があった。「これより素敵な予定でもあるの?」というクラウスの言葉を聞きながらスチュは何を思ったのかなぁ。きっと、もう心は決まっていたんじゃないかな。

この後のシーンが私は大好きです。真っ暗になったステージの手前ギリギリに射す一直線の光、その上を導かれるように歩いていくスチュ。たぶんすでにエルベ川のシーンなんだろうけど、光に導かれて彼女の元へそして本当の自分の元へ向かっていくような表現が気に入っています。

(2019.6.24追記)

このシーンでスチュが両手を広げバランスを取りながら歩くのは、もしかしたら天秤みたいなものなのかなと思いました。『ビートルズのメンバー』と『スチュアート・サトクリフという一個の人間』そのふたつのバランスを取っているのかな、とか。これは深読みですが。

(追記終)

「ビーバッパルーラ!ビバッパルーラ!」スチュの溢れる想いが言葉になる。日本語訳を見ると、このセリフはやっぱりアストリッドのことかなぁと思います。

つぶ訳wiki - BE-BOP-A-LULA (ビー・バップ・ア・ルーラ) [BE-BOP-A-LULA] - つぶ訳wiki   *4

他のメンバーがレコーディングをする最中、ひとりここにいるスチュにアストリッドはグループのメンバーなのになぜここにいるの?と問い掛けます。「あそこにあるのは自分の一番じゃない。君といたい」ストレートなかっこいい台詞だけど、スチュアート・サトクリフ、お前マジでクズだからな!と私はいつも怒るのですが、こういう理解できない何にも縛られない自由さが芸術家なのかなぁとも思います。それにきっと、スチュは他のメンバーほど音楽にすべてをかけられなかったんじゃないかな。そして、ビートルズは彼の世界ではなかった。

「画家の手で世界に触れる。画家の目で世界を見る」アストリッドのセリフを受けてスチュはこう続けます。「画家だけど、ベース奏者としては失格だ。ルックスがいいから入れられただけ」ジョンが彼の世界であるビートルズを完成させるために自分を選んだけれど自分がその器ではないことについて、スチュはスチュなりの葛藤を抱いていたのかもしれないし、スチュはジョンに憧れて愛していながらもジョンを信じきれていないようでもありました。アストリッドはそんな彼を「ジョンはスチュを愛しているし、一緒に(世界を)めざしたいはず」と諭します。才能に溢れて自信があるように振る舞うスチュの満たされない想いにアストリッドはしっかりと寄り添ってくれた。スチュはそんな彼女だから愛したのだろうなと思います。

エルレ川でのシーンと並行して進んでいたレコーディング。舞台の下手側では写真を現像するアストリッドとそれを見守るスチュ、そしてふたりのラブシーンへ。もちろんドキドキするけど、めっちゃかわいいからしっかり見てください!途中から猫がじゃれあってるみたい!すごく楽しそう!

一方、上手側ではボーカルだけを録るというていでひとりマイクの前に立つジョン。『Ain't she sweet』歌い終えたあとに彼が吐き捨てる「どこにいるんだよ、お前」という台詞、そして暗闇の中へ消えていく背中。ずっと堂々としているジョンに初めて哀愁を感じるのがこのシーンです。アストリッドの言う通り、ジョンはスチュを愛していて、彼をとても必要としていたのでしょう。

ベッドに横たわりながら、スチュはアストリッドにジョンが自分を愛してるなんて本気で言っているのか?と尋ねます。スチュにとってはやっぱりそれは信じがたい事実なのかな。「尊敬しているからバカにしたくなる。そうしないと関係を保てない」舞台ではジョンがスチュのことをバカにしているようなシーンはあまり見受けられなかったけれど、スチュはジョンのことを『最高の友人で、俺を最高にイラつかせる』とも言っているからきっとそういう一面があったのかな。

このあと、部屋に戻ってきたクラウスにふたりの関係は知れてしまうけれど、クラウスはそれを受け入れます。きっとずっと予感はあったのだと思う。ビートルズが巻き起こそうとしている波。世界を変えてしまう波。それに一番に攫われてしまった自分。それでも即座に受け入れて、それから先も彼らと友人関係を続けていったクラウスはとても賢いし、それほどまでに彼らが魅力的だったのかなぁ、なんて考えました。

 

熱狂と静寂

バンビ・ホテルのベッドでギターを手にするポール、弾き語るのは『Twist and Shout』やってきたジョンの「ラテンだな」の言葉に挑発されるようにキーを変えてふたりで歌う。私はまったくジョン・レノンポール・マッカートニーについて知らなかったんだけど、この瞬間だけでこのふたりが一緒にいるだけで無敵なんだなぁなんて思ってしまいました。アストリッドの部屋から戻ってきたスチュは楽しそうに歌うふたりの姿を眺めながら何を思ったんだろう。本当にこれは私の推測でしかないのだけれど、ポールはスチュに嫉妬をしていたのと同じ感覚とは言わないけれど、スチュはスチュでポールに対して複雑な感情を抱いていたんじゃないかなぁと思います。今なお知られているように、ジョンにとってポールは最高のパートナーで最高のライバルだった。ハンブルク時代にはジョンの情熱はスチュに向いていた部分もあったけれど、音楽面ではポールに絶大な信頼を置いていたはずです(アストリッドにバンドメンバーの紹介を頼まれたジョンが演奏技術を褒めたのはポールだけでした)。スチュが客席に背中を向けて演奏するのは、ベースが弾けないのを隠すためだったと言われているようです。音楽面ではスチュはジョンの隣に並ぶことはできないから、それはきっと明白な事実だったのではないでしょうか。

5人で暮らすバンビ・ホテルを出て行くというスチュに対して当てつけのように「もうクラブに来なくていい」というジョン。もちろん苛立つスチュに対してトップ・テン・クラブへの昇格を告げ、喜びを分かち合うのです。この瞬間のスチュとジョンのかわいさたるや!びょんとジョンに飛びついたスチュを軽々と抱え上げるジョン。いや、加藤和樹さんの腕力すごすぎません?!あとね、ジョンとスチュの不穏なやり取りを心配そうに見ていたジョージがホッとしたように笑顔になる瞬間もかわいいので必見です。

トップ・テン・クラブへと場所を移し、どんどん人気を得ていくビートルズ。熱狂する観客、彼らを中心に起こる波のうねりはどんどん大きくなっていく。そんな中、スチュはアストリッドと暮らす部屋にあるアトリエにひとり籠り一心不乱に絵を描くようになります。グループとしての成功が現実味を帯びてきたからこそ、スチュは自分の中にそれだけでは満たされない何かがあることに気付いたのかもしれません。初めて会った日のアストリッドの予言通りに。

スチュに招かれるかたちで彼のアトリエを訪ねたジョン。この頃にはスチュはアトリエに籠ることも多く、ジョンですら彼が気が向いた時にステージに上がる時にしか会えなくなっていました。絵画とアストリッドに傾きかけたスチュの心。ジョンがいてグループでハンブルクに来たから彼女とも出会えた。それなのにスチュは徐々にグループとしての活動を蔑ろにしていく。そんなスチュにジョンは言います。「心を決めろ」と。でも、この時のスチュはまだ決められなかった。ジョンは彼の心を引き戻そうと畳み掛けるように言葉を繋ぎます。「今の時代ならゴッホは絵を描いていない」「そうかな?実際俺は…」これに続くのは『絵を描いている』という言葉かな。そんなスチュの言葉すらジョンは言わせはせずにジョンは続ける「ミケラジェロもキリストもグループに入る!」大げさかもしれないジョンの表現に笑いながら「ベースは誰が弾く?」と尋ねたスチュに、ジョンはすぐさま答えます。「お前だ。だって、お前は最高に輝いている人間だから」ジョンのスチュへの想いの強さを私が理解できないのは、私が何かに・誰かに必死になったことがないからなのかもしれません。まるで身を焼くかのようなその想いは理解はできないけれど、それはこのシーンのジョンの必死さで伝わってきます。そして、その真摯な言葉はスチュにも伝わったのでしょう。けれど、スチュは言う自分が素晴らしい人間だとしたら、それはベーシストだからだじゃない。絵を描いて芸術に人生を燃やしている。そして、アストリッドに恋をしているからだと。すごい人だと思う。私には全然理解できない。こんなにアイデンティティがしっかりしていて、それに人生をかけられるなんて。スチュの言葉を聞いてジョンは言います。「聞けて良かった」と。舞台を見てから色々と調べていくうちに出会った記事にジョンが後日語った『スチュを信頼していたのはスチュが思ったことを何でも話してくれるから』といった内容の言葉を見つけました。*5 これはスチュが思いついたアイデアの話なのかもしれないけれど、スチュが『話してくれる』ということにジョンは彼が自分に心を開いてくれていることを感じ、自分の近い存在であり信頼に足る人物であるという想いを抱いていたのかもしれないなぁと私は思います。「アトリエに自分を閉じ込めるな。外へ出てこい」ジョンは誰よりも彼の才能を知っていて一目置いていたからこそ、もっと世界にその存在を知らしめて欲しかったのかな。それも、できれば自分たちとともに。

(2019.6.24追記)

メモしていなかったので書いていなかったのですが、ジョンはスチュに「世界を分かち合おうぜ」とたしかに言っていました。本当にそれを彼は望んでいた。ジョンはビートルズとして世界を手に入れたかったけれど、その世界を一人で手に入れたいわけではなく本当にスチュと分かち合いたかったんだ。そこまで彼に執着していた。千秋楽、それに応じたスチュと固く握り合った手の甲に互いにキスをするの、グッときました。

(追記終)

ジョンと心を通わせ、捨て置いていた革ジャンを羽織ってビートルズとして活動を続けることを決めた矢先、彼らをひとつの不運が襲います。契約に背きトップ・テン・クラブへと移籍した彼らに腹を立てたブルーノ・コシミダからの密告により、ジョージがドイツの最少労働者年齢である18歳に満たないことが警察に知れ、彼らはイギリスへと強制送還されることになるのでした。

掴みかけていた光が指先からすり抜けていく。それでも彼らはグループとして全員でリバプールへと戻ることを決めます。*6

(2019.6.24追記)

強制送還前にアストリッドとスチュが二人で抱き合うシーンがあります。そのシーンで地面に置いたベースケースがいつもぱたんと音を立てて倒れていた。バンドよりも女が大事、そういう悲しさを感じていたんだけど、なんと千秋楽の日、奇跡的にそのケースが倒れなかったんです。だからといってストーリーが変わるわけではない。けれど、何故だか私の心は満たされた。スチュがアストリッドだけではなくビートルズのことも大切にしていたんだな、とこんな奇跡にすら感じてしまった。

(追記終)

 

スーツケースと楽器を携え、暗闇の中に消えていく5人の背中。

彼らはどこからともなく現れる妖精。人生を変える魔法の雫を持った。そして、どこへとも消えてしまう。

アストリッドの台詞とともに閉じられる第一幕。クレイジーでなんだかよくわからない目眩がしそうな夢みたいな時間、その根底に流れる音楽や芸術に対する情熱、愛。その熱量は凄まじかった。

バンドパートが、ビートルズを演じる彼ら自身の生演奏なのがまたいい。劇場の椅子を震わせるほどのサウンドは、さながら当時のクラブのフロアのようで、今すぐ立ち上がって踊り出したくなるし、叫び出したくなる。

この舞台は回数を重ねるごとに良くなっていく舞台だと思いました。回数を重ねるごとに良くなっていく舞台がいいのか悪いのか、という問題はいつでもあるけれど、でもこれは仕方ないよ、と私は思ってしまう。だって生の音楽がそこにあるから。観客の前で、ステージの上で演奏することで彼らはビートルズにどんどん近付いていっているような気がする。

こんな一幕とは対照的に二幕は悲しい物語なんだけれど、それでもそこにあるのは悲しみではありません。ロックンロールという、芸術という情熱と自由が、確実に舞台の上に存在しているんだから。

 

前半はここまでです。燃え尽きたから後編かけるかなぁと不安しかないけど、千秋楽までには書きたいですね!頑張りたい!笑 あと、小見出しテキトーですみません!!

 

2019.6.24 加筆

*1:Wikipediaによると、ポール・マッカートニーが初めて買ったレコードはこの曲だったそうです。そしてのちにジョンと初めて出会った時に、弾いてみせた一曲とも

*2:彼自身も画家であり1966年に発表されたビートルズの『リボルバー』のアートワークを手がけています。またスチュがビートルズを辞める際に彼のベースを譲り受け、その後ビートルズメンバーと音楽面でも共にすることとなったようです。

*3:千秋楽、「Excellent!!!!」と叫んだスチュに戸塚くん感を感じました。

*4:これね、他にも色々和訳はあったんだけど、「
自分の彼女がいかにカッコよくて素晴らしいかということを自慢する歌。」というシンプルな解説が気に入りました。

*5:https://abbeyroad0310.hatenadiary.jp/entry/2016/06/11/002917

*6:このあたりは史実とは若干の違いがあるようです。興味がある方は調べてみてください。