I like what I like

アイドルが好きです。

ABC座 ジャニーズ伝説2017

東京駅丸の内南口を出て、皇居を遠目に見ながら、有楽町駅を目指す。変わっていく風の匂い、色付いて落ちてゆく街路樹の葉。季節が移り変わる様子を肌で感じながらほとんど毎週同じ道を歩く。毎年同じ景色を眺めながら秋が駆け抜けていく。

この季節の美しさを私はいつも日生劇場への道のりで感じる。今年もまたABC座の季節がやってきた。

 

A.B.C-Zがジャニーズ伝説を演じるのは今年で三回目。

初演は2013年の10月、再演が翌年5月。そして、約三年半の年月を超えて今年またこの演目が選ばれることとなったけど、今回のジャニーズ伝説はこれまでの二回とはひと味違った。

その物語の中にジャニー喜多川がいる。

再々演にあたり、大幅な脚本変更があった。変更点は多々あるけれど、一番の変化はストーリーテラーが変わったことだと思う。

初演、再演共に序盤の戸塚くんのメインの役として割り振られていたのはジャニーズの四人が出会う盲目の少年の兄の役であり、この役がジャニーズの物語を語るストーリーテラーだった。

これまでのジャニーズ伝説は事実を下敷きにしたファンタジーだったように思う。悲しき雨音がBGMとして流れる、夢と希望と別れがすごくわかりやすく描かれた映画みたい。物語をファンタジーにしていたのは、きっと他でもない件の少年とその兄の存在だったと思う。アイドルの物語に一般人の日常が交錯するという設定がまずファンタジーだった。初代ジャニーズというグループを実際に見たことがない私にとっては、この話の骨組みになっているストーリーが本当にあった話だとは思えなかったこともあるけれど。

ところが、ジャニーズ伝説をファンタジーにしていた二人が不在の今作、ストーリーテラーとして登場したのは他ならぬジャニー喜多川。いきなりリアルだった。

ジャニーさんを演じたのは戸塚くん。登場するなり、当時らしい野暮ったい格好に一気に時代を感じさせる。戸塚くんって本当に昭和が似合う。昭和という時代を体現してる。そういう雰囲気を感じさせるのなんでだろうね、不思議。

物語は、終戦後の東京代々木に作られた在日米軍施設ワシントンハイツから始まる。この冒頭のシーンがすごく好き。高度経済成長を目前にした日本、テレビジョン本放送が始まったのもこの頃。そういう時代背景とも相俟って、初代ジャニーズのメンバーとジャニーさんが出会うシーンは、明るく胸が踊るような気持ちになる。また、このシーンは「ジャニーズ」という言葉が生まれた瞬間を描いたシーンでもある。子供たちに野球を教えている様子を見ていた四人にジャニーさんはとうとう声を掛け、四人は野球チームに入ることとなる。ジャニーさんは、チームをエラーズやヘターズという情けない名前で呼んでいたけれど、ある日橋本くん演じるあおい輝彦が「ジャニーさんのチームだからジャニーズ!」というなんだか可愛い名付けをしたことをきっかけに今では当たり前の「ジャニーズ」という言葉が生まれた。

そんな中、ある雨の日、野球の練習が出来なかったジャニーズの四人とジャニーさんは映画を観に行く。観たのは「ウエストサイドストーリー」。その魅力に取り憑かれ四人はエンターテイナーを目指すことになって……

さて、みなさん、Wikipediaのジャニーズの項をご覧ください。ここまでのストーリー、書いてあるでしょう*1。ここまですごく事実に忠実に描かれていることがお分かりいただけるかと思います。

この後、この作品のひとつのテーマ曲と言っても過言ではない「悲しき雨音」を歌うけれど、ジャニーズの始まりが描かれることで、この曲を歌うことの必然性が生まれて納得感が増したように思う。この曲は当時のヒットミュージックでもあるし、その後に続くバリー・デボーゾンとの出会いへの布石でもあるけれど、「雨が彼らの運命を変えたんだ」というジャニーさんの言葉を受けて歌われるからこそ、また特別な気持ちで聴けたような気がする。

成り立ちを知ることでなんとなく気持ちが近くなる部分がある。別にこの舞台はそういうのを狙ってるわけではなくて、一つの事実を残すためのものなんだろうけど、それでも自然と作品の世界を身近に感じられるのはいいことだと思う。そんな素敵な変化が可能になったのは、やっぱり劇中にジャニーさんが居たからだろう。

一幕からせいぜい一幕半ぐらいのジャニーズ伝説という話を、これだけ手を替え品を替え上演し続けるってよほど誰かの思い入れがあるに違いない。今回の変更がどういう意図で行われたのか知らないけれど、ここまでのシーンを見ていると、いろんな栄光があったジャニーさんにとっても、この時代って本当に美しくてかけがえのない思い出なんだろうなと思えるようになってきた。気付いたら、ジャニーさんの気持ちで舞台を観てる。この舞台はジャニーズにとっての夢と希望と別れの物語だと思うけど、ジャニー喜多川の視点からしても同じような物語なんだろう。

そういえば、ウエストサイドストーリーを観た後で、実際に映画の中に飛び込んだかのようなシーンがあるけれど、私はこのシーンがとても好きだ。ジャニーさんが四人を操るような動作に、ジャニーズの四人がジャニーさん導かれてエンターテイメントの楽しさを体験している様子が現れていてなかなかいいなと思った。

別にジャニーさんをすごく支持してるわけではないし、事務所アゲをしたいわけでもないけれど、ここまで歴史を刻んでこれたことは、単純にすごいことだと思う。その歴史のスタートがこの舞台で描かれるジャニーズだと思うと、やっぱりこの頃の記憶や記録は特別なものだし、きっと残しておきたいものなんだろうなと思う。

さて、本編に戻り、ジャニーズは日本での初めてのテレビ出演を経て一定の人気を得た後、アメリカへと武者修行に行くこととなる。これ、普通に考えてすごいよね。アメリカに渡航したのは1966年。今は海外旅行に自由に行けるけれど、そもそも観光目的の海外渡航が自由化されたのは1964年。それまでは留学や業務目的でしか海外には行けなかった。費用もとても高額で、ハワイ7泊9日(食事付き)で36万4千円。当時の新卒社員の一年半分の給料額だそう*2。1964年の大卒初任給は約21,000円。2017年が約210,000円だから約10倍の約360万円がハワイ7泊9日の費用とする。旅行サイトで調べると2017年10月時点でハワイ7泊9日にかかる費用はビジネル利用スタンダードクラスホテルで30〜60万円。普通に海外行こうと思って(私は行ったことないけど)ビジネスなんて乗らないだろうし、エコノミーで行くと30万程度で行けてしまう。食事分差し引いても大体10倍ぐらいは費用がかかる計算になる。要するに当時の海外旅行はとても高額だった。そういう点からも、ジャニーズを、よし行ってこい!と送り出したことはすごいと思う。ジャニーさんを演じる戸塚くんが、ジャニーズのアメリカでの生活を語るシーンがあるけれど、たった数ヶ月間のその生活はとても刺激に満ち溢れていたのだとありありと感じられる。キラキラと眩しい思い出を宝箱から取り出して、その眩しさに瞳を眇め遠い過去を思い出しているような視線がとても印象的だった。

今回、ジャニーさん役の戸塚くんは、語りのシーンの多くを担っている。その台詞や語り方を聞くと、このシーンは劇中の時間の流れに沿ったものじゃなくて、全てが終わった後に過去を思い出しながら話をしているのかなと思えてきた。初見後、今回のジャニーズ伝説はジャニーさんの思い出アルバムのようだったなぁと思ったけれど、その要素も強いんじゃないだろうか。もちろんあおい輝彦さんの思い出アルバムでもあるけれど、二人の視線から見た初代ジャニーズの物語だった。一つの視点が加えられるだけでこんなに見え方が違うんだ。

アメリカでの生活は、デボーゾンとの出会いもあり、ジャニーズにとってはすごく刺激的だった。このあたりは例年と同じだから割愛しようと思うけれど、デボーゾンのキャラ変えがぶっ飛んでて、笑ってはいけないジャニーズ伝説になっていた。戸塚くんは生き生きしてて楽しそうです。みんなが笑ってくれると本当に生き生きとボケまくるね。最高です。

アメリカでのシーンの中で特筆すべきは、トラジャの「夢のハリウッド」だと思う。トラジャ担でなくてもこのシーンはとても楽しめる。曲も良いし魅せ方も素晴らしい。もしトラジャを好きな人がこの記事を読んでいたら、ここは他担の戯言だと思って読み飛ばして欲しいのだど、初見で五人のトラジャを見た瞬間、胸にくるものがあった。本編とは別の軸で展開されてはいるし、フィクションではないけれど、ここにもいくつかの別れが凝縮されているから堪らない気持ちになった。つまり、寂しかったんだよね。それでも、この曲を歌っている五人は生き生きとしてキラキラ輝いていて、希望に満ち溢れていてすごく魅力的なんだ。だから、余計に心が踊る。

夢ハリ後のシーンで河合くん演じる中谷さんは東京へ帰る日が近付いていることを知る。こんなにキラキラして希望に満ち溢れているシーンなのになんだか寂しいのは、この先の展開を知っていることと、私が「夢」という言葉は常に終わりと背中合わせだと思っているからだろう。かくして、ジャニーズはアメリカでの夢半ばにして日本に帰ることとなる。どんなに心を揺らしても、選択の余地なんてない。

一幕最後にI Rememberを五人で歌うのだけど、戸塚担としてはこのシーンはとても見応えがあった。デボーゾン家で歌う曲の中でこの曲が一番好きな曲だったから、この曲を歌って踊る戸塚くんが見れて良かった。赤の衣装かっこいい。唐突だと感じる部分もなくはないけど、ショーとしてはこの曲で一幕が終わるのは座りがいいと思う。

 

二幕の冒頭は1965年の紅白歌合戦。渡米する前年のシーンだ。当時の映像を背景に歌うマック・ザ・ナイフ。そして、A.B.C-Zでのパフォーマンス。現実を忠実に再現する訳ではないけれど、これまでのジャニーズ伝説で少し疎外感を感じていた戸塚担としてはこういうシーンも嬉しかった。

そして、空港でのジャニーズの帰国のシーンに繋がるのだけど、このシーンは例年と同じく結構つらい。記者の言うことはごもっともで、たぶん彼らが聞きたかったのは、アメリカや一流のエンターテイメントがどんなに素晴らしくてどんなに刺激的だったか、そういう生の情報だったのかなと思う。繰り返しになるけれど、当時は海外に行くなんてほんの一握りの人間しか出来ないことだった。格差は存在しただろうし、明るい話題ばかりではなかっただろうけど、日本の国には、高度経済成長期の夢と希望に溢れた雰囲気が確実にあったと思う。日本が目指したのはやっぱりアメリカだっただろうから、きっとみんなアメリカの様子が聞きたかったんじゃないだろうか。記者だって、自分たちが行くことができない海外の話を聞いて、それを日本中に発信したかったんだと思う。レコーディングしたということは事実だけど、それをアメリカで発売できたわけでも日本で発売できるわけでもないなら、その事実の価値はないに等しいのかもしれない。そして、それは事実かどうか疑念を挿し挟む余地があることだったんだろう。それは日劇エスタンカーニバルの楽屋でのスパイダーズの様子を見てもわかる。こいつら夢でも見ていたんじゃないか。そう思われていたのかもしれない。

いつの間にかジャニーズの四人もアメリカでの出来事が夢だったのかもしれないと思うようになる。日常の忙しさに追われる中、アメリカでの夢のような日々が遠くなっていく。言いようのない喪失感や焦燥感に襲われていたのかもしれない。一筋の希望だった四月のアメリカに行きも叶わず、その希望が消えてしまったことだって、きっと影響している。

そして、彼らは彼らの手でジャニーズを終わらせる決断をする。

このシーンの戸塚くんの演技すごくいいんだ。

無力さ、切なさ、そして、彼らの決断を尊重しようとする優しさ。色んな感情がこのシーンの戸塚くんの表情から読み取れる。

後半からはもっとぐっと堪えるような演技になった。瞳に涙をいっぱい溜めていて、項垂れるように俯くアプローチもよかった。

何度も言っているけれど、戸塚くんの表情のお芝居って素晴らしい。目は口ほどに物を言う、ではないけれど、心の底に渦巻いている感情が溢れ出ている。しかも、それがわざとらしくないし、自然と溢れてしまったような雰囲気を感じさせる。

「僕も楽しかったよ、ありがとう」

この台詞が、ジャニーズ伝説におけるジャニーさんの想いの全てなのかなと思う。ジャニーズとの数年間は、彼にとっても忘れられない特別な時間だったのだろう。

本編では描かれていないけれど、1967年11月ジャニーズは渋谷公会堂での解散コンサートをもって、五年半の活動の膜を閉じることとなる。アメリカから帰国したのが1967年1月。帰国してから十ヶ月後のことだった。

解散コンサートの数ヶ月前1967年6月、大阪フェスティバルホールで行われたジャニーズ主演のミュージカル『いつかどこかで~フォーリーブス物語』。このミュージカルで新たなグループが誕生する。

少しだけ挿入されるパートであるフォーリーブス伝説。控えめに言って最高です。

フォーリーブスの楽曲には、1990年代後半のジャニーズJr.黄金期と呼ばれる時代にとにかく歌って歌って歌われ続けた曲がある。「踊り子」と「ブルドッグ」。アツいよね、アツい。この二曲が2017年の日生劇場で聴けることがまずアツいのだけど、それを歌うのが五関戸塚塚田河合の要するにA.B.Cというのがアツい。2000年代中頃のNHKホールかな……まぁさすがに歌ってなかったかもしれないけど。

ブルドッグ、踊り子、地球はひとつのたった三曲だけど、本当に見応えがある。ブルドッグで客席を睨みつける戸塚くん、踊り子で「私は踊り子よ」と歌い始める戸塚くん、地球はひとつで古き良きジャニーズらしい振りを踊る戸塚くん。公演期間中の10/18に戸塚くんは髪を切ったわけだけど、それまではドラマ*3の影響で髪が長めで、若かりし頃の戸塚くんを彷彿とさせた。すごく良かった。どうもありがとうございます。

舞台は戻り、ジャニーズ伝説のラストシーン。あおいさん役の橋本くんが舞台に戻ってくる。カーラジオから聴こえてくるアソシエイションのNever My Love。この後、あおいさんの語りのパートが続くけれど、なかなかいい内容だった。不思議と嫉妬はなかった、という言葉がすごく心に残っている。

たしかに初代ジャニーズの四人は今のジャニーズの種なんだ。大きくなった木はたくさん枝分かれして、その枝につく葉っぱもいろいろだけど、その元をたどっていくとたった一つの種に辿り着くんだろう。

 

ここからはショータイム!A.B.C-Zが歴代デビュー組の曲を歌ってくれるよ!最高かな!ところで、とうとう嵐も歌ってもらえる側になりました……すごい時代。Jazzyなアレンジでオシャレでありながら、曲に合わせた振りがつけてあって飽きずに楽しめる。Believe Your Smileで橋本くん→戸塚くんと歌い継いで二人が背中合わせに立つところとか、キスミスのかわごとか、お祭り忍者の楽しそうな戸塚くん(独鈷印結んだり手裏剣投げたり)とか、宙船の独特の世界観とか、世界に一つだけの花を踊り継ぐところとか。もう全部全部好き。金色の衣装が眩しくて、背中にJohnny'sの文字を背負うA.B.C-Zがかっこよくて、夢みたいな時間だった。

そして、今回の遊園地、新装置5BOX。本当に怖かった。Jr.のみんな逆上がりの練習しといた方がいいよ。足固定して逆さ吊りにされた時に、いやーこれは正気じゃない!と思った。戸塚くん頑張ってと何度も祈ったし、本当に気が気じゃないから、ショータイムが終わって大団円で終わった後も心臓ばくばくしてて落ち着かなかった。でも、この瞬間に命が燃えてると思うと目が離せなかった。しっかりこの目に焼き付けようといつも思っていた。

ショータイムはテレワン〜ざえび〜ネバマイ。改めてネバマイを聴くとすごくいい曲だなぁと思った。間延びする曲だと思っていて今まであまり好きな曲ではなかったけれど、今回のジャニーズ伝説を見てこの曲を歌い継がせてもらえて良かったなぁと思った。ジャニーズにとっての幻の一曲をのびのびと歌い、ふわふわと舞う花びらのように踊るA.B.C-Zを見ていると多幸感溢れ過ぎて胸がいっぱいになる。素敵な曲をA.B.C-Zに託してくれてありがとう。

 

新たなアプローチで見せてくれた三回目のジャニーズ伝説。

初見後に思ったのは、A.B.C-Zってジャニーズの正統派なんだなぁということ。テレビもコンサートも舞台も好きだけど、一番「ジャニーズ」というものを強く感じるのは内部舞台を見ている時かもしれない。手前味噌かもしれないけれど、A.B.C-Zは、そんな「ジャニーズ」らしい舞台をしっかり演じられる。派手さはないかもしれないし、人気の面でも今はきっとそこまでではないものの、「ジャニーズ」の源泉になるエッセンスをきちんと受け継ぎ体現している。初日にジャニーさんから「君たちはもう心配いらない」と言われた話をしていたけれど*4、すごくありがたい言葉だと思った。少なくとも舞台というフィールドでは、A.B.C-Zはジャニーさんの太鼓判を押してもらえる存在なんだ。たくさんの先輩の背中を見ながら、A.B.C-Zはここまできた。これから先どういう風になるのかな。考えるのは楽しいけど、未来はわからない。でも、出来るだけ長い間、五人の舞台は続けて欲しいなと私は思ってる。メンバーもファンも大変だと思うけど、舞台の上のA.B.C-Zってすごくかっこいいから。出来るだけ長い間、その姿を見ていたい。

三度目のジャニーズ伝説。改めてだけど、ジャニーさん、A.B.C-Zにこの作品を演じさせてくれてありがとう。思い出の一部を託してくれてありがとう。

*1:https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ジャニーズ

*2:JTB総合研究所_海外渡航自由化50周年に向けて:https://www.tourism.jp/tourism-database/column/2014/02/overseas-travel-liberalization/

*3:NHKドラマ10 「この声をきみに」

*4:10/12放送 TBS ビビットより